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アパレル業界で注目されるD2Cとは
【この記事は2020年1月23日に加筆・修正しました】
近年、日本のアパレル業界でD2Cというビジネスモデルが注目を集めています。実際にD2Cブランドはここ数年で増加し、他業界からアパレルD2C事業への参入なども起こっています。
D2Cが人気の理由の1つは「適正価格で高品質の商品を提供できる」ことですが、それ以外にもさまざまなメリットがあるのです。D2Cの意味や事例とともに詳しく見ていきましょう。
D2Cとは?
D2Cの意味
D2C(Direct to Consumer)とは、メーカー・ブランドが自社ECサイトを通して、顧客に直接商品を販売するビジネスモデルです。
一般的なB2Cのビジネスモデルでは、メーカー・ブランドによってつくられた商品が、卸売業者や小売業者を経て顧客の手に渡ります。つまり、メーカー・ブランドと顧客の間にいくつかの仲介業者が存在することになります。
これに対し、D2Cではメーカー・ブランドによってつくられた商品が、直接顧客に届きます。つまり、メーカー・ブランドと顧客の間に仲介業者が存在せず、商品の企画・製造から販売まで一貫してメーカー・ブランドがおこなうことになります。
D2CはB2Cの一部でありながら、メーカー・ブランドと顧客の間に直接的繋がりがあるという大きな特徴を持つのです。
D2CとSPAの違い
D2Cと似たような業態に、SPA(Speciality store retailer of Private label Apparel;製造小売業)があります。SPAとは、D2Cと同じように企画・製造から販売までを自社でおこなうビジネスモデルで、代表例としてユニクロやZARAが挙げられます。
そんなSPAとD2Cの違いは、実店舗の有無です。D2Cでは自社商品を自社ECサイトで販売するため、実店舗を持ちません。一方で、SPAブランドは自社商品を販売するための、そのブランド専門の実店舗を持ちます。
日本のアパレルD2Cの伸びしろは大きい?
近年、日本のB2C型ECにおいて、その市場規模とEC化率(=通信、対面など全商取引市場規模に対するEC市場規模の割合)はともに拡大しつづけています。
その中で、2018年のアパレル関連商品(衣類・服装雑貨など)のB2C型ECの市場規模は、物販系分野では最大の約1.7兆円。前年より1,000億円以上も増加しました。
(経済産業省「平成30年度 我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備〈電子商取引に関する市場調査〉報告書」7,49頁より)
さらに、ECサイトで自社商品を販売する企業について、その販売モデルの割合は「自社ECサイト」が「他社ECサイトに出店」を上回る68.0%だったというデータもあります(平成30年時点)。つまり、B2C型ECのビジネスモデルにおいて、最も大きな割合を占めるのはD2Cということです。
(総務省「平成30年 通信利用動向調査の結果」11頁より)
以上のデータから、次の2つのことが言えます。
①拡大しつづけるB2C型EC市場の中で、アパレル業界は最大の割合を占める(物販系分野内、2018年時点)
②B2C型ECのビジネスモデルの中で、最大の割合を占めるのはD2C
したがって、「日本のアパレル業界のD2Cは今後も伸びていく余地がある」と予測できるのではないでしょうか。
なぜ「アパレル✕D2C」が注目されるのか?
なぜ今、アパレルとD2Cの組み合わせが注目されているのでしょうか。先ほど述べた「アパレルD2C市場が大きい」という以外にも、いくつか背景があると考えられます。
消費者=ファンの時代に
単なる一消費者ではなく、ファンとして特定のブランド商品を買う人が増えています。
D2Cでは、メーカー・ブランド自身が集客や顧客データの収集なども担うので、顧客の動きをより理解できるようになります。それにより、ブランドとファンの関係性構築もしやすくなります。
そのため、D2Cは消費者=ファンの今の時代に適応したビジネスモデルと言えるでしょう。
少ない生産でテスト販売が可能
D2Cでは企画・製造から販売まで一貫して自社でおこなうため、新商品を出したときにメーカー・ブランドが売れ行きを把握しやすくなります。それによって、すぐに生産数を調整することもできます。
そのため、新商品を出すときに、最初はテスト販売的に少ロットで売るということが可能になります。これにより効率的な商品ラインアップを組めますし、余剰在庫を防ぐことにも役立ちます。
(WWD JAPAN「アパレルで急増する“D2Cビジネス”って何なのか、EC企業発ブランドから考えた」より)
OEM・ODMのアップデート
アパレル業界では、商品の生産過程でOEM・ODM(※)がよく活用されます。そして、OEM・ODM事業を担う企業は顧客と直接結びつきにくい立場でした。
しかし、D2Cであれば少ない資金で顧客への直接販売が可能であり、商品開発から集客・販売に至るまでの多くのノウハウも得られます。そのため、D2Cに参入するOEM・ODM事業を担う企業が現れています。
※OEM(Original Equipment Manufacturing)…他社ブランドの製品を製造すること。
※ODM(Original Design Manufacturing)…他社ブランドの製品を設計から製造までおこなうこと。
(WWD JAPAN「伊藤忠がアパレルのD2Cブランドを立ち上げたワケ」より)
D2Cのメリット
上記を含む複数の背景によって注目が高まるD2C。実際に参入すると、どのようなメリットが得られるのでしょうか。
安価で質の良い商品を提供できる
D2Cであれば、仲介業者や実店舗によるコストを削減できます。そのため、品質を維持もしくは向上させながら、安価な商品を販売できます。
顧客データの収集
自社でマーケティングやプロモーション、販売などおこなうことで、他業者に委託するよりも細かい顧客データの収集・蓄積ができます。これにより、新商品開発に活かせる環境設計も可能です。
顧客との距離が近くなる
従来はアパレルメーカー・ブランドと顧客が接する機会は多くありませんでした。しかし、D2Cではブランドの思想の発信や配送中の連絡、返品時のオペレーションなど、顧客との関係がより近くなります。
ブランドの思想がそのまま伝えられる
販売をセレクトショップや百貨店などに委託すると、商品の見せ方が思い通りにならないこともあります。D2Cでは販売・販促も自社でおこなうので、ブランドの思想が顧客に伝わりやすいです。
D2Cのデメリット
D2Cにはメリットだけでなく、いくつかデメリットも存在します。
高度なブランディング
D2Cでは、商品を他社ECサイトで委託販売するのではなく、自社ECサイトで販売します。つまり、自社ECサイトで多くのアクセス数を得なければなりません。
そのためには、ファンを引き寄せられる高度なブランディングが必須です。
EC環境構築のコストやノウハウ
D2Cでは、唯一の販売経路となる自社ECサイトの見せ方が非常に重要です。D2C自体コストがかかりにくいビジネスモデルとはいえ、魅力的なECサイトをつくるには、相応のシステム投資やECサイト運営のノウハウも必要です。
たとえば、ワービーパーカーは斬新なWEB体験をECサイトの付加価値とするため、病院や店舗へ行かなくても視力検査ができるアプリを設計しています。
アパレルD2Cの事例
アパレルD2Cブランドの事例をいくつか紹介します。
D2Cを先駆ける日本・海外ブランド
NY発アイウエアブランド「ワービーパーカー」
Warby Parker(ワービーパーカー)はNY発のアイウエアブランド。自社でデザインから製造、オンライン販売まで行うD2Cモデルによって、コストを削減しました。ハイクオリティーなアイウエアを、一律$95(一部商品を除く)という従来より手頃な価格で販売しています。
世界一快適な靴「オールバーズ」
Allbirds(オールバーズ)は、2016年にサンフランシスコで設立されたスニーカーブランドです。メリノウールを使用した履き心地にこだわったスニーカーが大人気となり、調達資金は30億円を超えました。2020年1月には、日本第1号店となるコンセプトストアが原宿にオープンしました。
ストレスフリーな服「オールユアーズ」
ALL YOURS(オールユアーズ)は、クラウドファンディングの成功によって知名度・人気を高めた日本のアパレルベンチャーです。トレンドよりも、服の機能性や顧客と服を「共創」する姿勢を重視しています。商品の開発から販売までを自社で担うD2Cモデルを採用しており、高機能ながら適正価格を実現しています。
長く愛用できるファッション「10YC」
「10年着続けたいと思える服」をテーマに、長く着られるアイテムを生み出す10YC(テンワイシー)。D2Cモデルによって、生産工場や生産過程、原価をすべて見える化しています。一時は予想以上に人気に火がつき生産が追いつかず、一時販売休止となったこともあったそうです。
日本大手企業がアパレルD2Cに参入する事例も
伊藤忠が手掛ける新ブランド「ジャメヴ」
2019年9月、日本の大手総合商社である伊藤忠商事がアパレルD2Cに乗り出しました。その名もJAMAIS VU(ジャメヴ)。商社として培った仕入れのノウハウを活かし、世界各国から良質な素材を選りすぐることで実現する「自由で正直なものづくり」が強みです。
クロスプラス初のD2Cブランド「ノーク」
GMSレディスアパレルのトップを走るクロスプラスが、2019年2月にN.O.R.C(ノーク)という同社初のD2Cブランドを立ち上げました。働く女性やママの服に対するリアルな考え方を捉えて大人気に。初年度売上は当初目標を大幅に超える4億円強と予想されています。
D2Cの発展・進化は続く
ここ数年で日本および世界では、アパレル業界や大手・ベンチャーに限らずD2Cブランドの立ち上げが増加しました。それに応じて少ロットで種類の豊富な商品づくりが求められるようになり、「AYATORI」など新しい生産管理ツールも誕生しました。また、海外を中心にD2Cの進化系ともいえるDNVBなるブランドも現れています。(DNVBについてはまた別で記事を書こうと思います)
このように、現在進行系でますます発展しているD2C。顧客に適正価格で高品質な商品を提供できることをはじめ多様なメリットがありますが、上記で述べたようにデメリットもあります。これらや事例を参考にし、自社に合うビジネスモデルを選んでいきたいですね。
執筆=中原 愛海
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