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普及が困難なアパレルのリサイクル、今後どうなっていく?

2020.01.09

アパレル業界のリサイクルの現状

再び服に生まれ変わるのは1%未満

アパレル業界において、リサイクル状況はかなり深刻です。

世界では、廃棄された服の約73%が焼却または埋め立て処分され、リサイクル用として回収されるのは12%ほどです。しかも、そのほとんどがマットレスの詰め物にされたり、断熱材や掃除用のクロスになります。最終的に新しい服に生まれ変わるのは、1%にもおよびません。

(世界経済フォーラム「深刻化するファッション業界のごみ問題:解決策の一端がここにある」より)

アパレルのリサイクルが進みづらい理由

衣類のリサイクルがなかなか進まないのには、さまざまな理由があります。

①繊維のリサイクルは技術的に難しい
アパレル市場で最も需要がある繊維は、2種類以上の繊維を混ぜてつくる「混紡繊維」と呼ばれるもの。混紡繊維をリサイクルするには、混ざった個々の繊維を分離しなければなりません。しかし、品質を保ちながらの分離は技術的に難しいとされています。

②アパレルメーカーに対する規制が少ない
近年はあらゆるメーカーに対して、製造過程で出るごみを規制する動きが活発になってきています。しかし、ほかの業界と比べ、アパレルメーカーに対する規制圧力は少ないです。繊維メーカーにリサイクルまたは処分を義務づけている国は、フランスのみとなっています。

③従来のリサイクル製品の需要が低下
衣類をリサイクルしてつくられる軍手は中国などで安く生産できるようになり、工業用ウエス(機械類の汚れをふき取る布)も「使い捨て」が敬遠されはじめ需要が低下しています。また、東南アジアに送られていた古着も、東南アジアの発展により以前より求められなくなっています。

(THE WALL STREET JOURNAL「古着リサイクルなぜ進まない? 新技術を模索する業界」より)

アパレル業界でリサイクルが注目されはじめた理由ー背景にある課題

近年はアップサイクルへの取り組みが増えるなど、アパレル分野のリサイクルが注目されています。(関連記事:「アップサイクルでサスティナブルなアパレル流通を目指す」)その理由の1つはもちろん、先に述べた「新しい服へのリサイクル率の低さ」です。そして、ほかにもいくつか理由があります。

行き場のない古着たち

世界的に2000年から2015年で、1人あたりが購入する服の数が約2倍に増加しているため、1つの服が着用される回数は減少しています。つまり、近年は古着がかなり増えているのですが、うまく循環していないのが現状です。
(THRED UP「2019 RESALE REPORT」より)

日本では1990年から2018年で、衣類の消費数量は16.4%増加している一方で、日本の人口の増加率は2%ほど。つまり、1人あたりが消費する服の数は増えていることから、1着の服が着用される回数は減少していると言えます。
(商業界ONLINE「小島健輔が調べた『怖すぎる衣料消費の現実』」より)
(総務省統計局「人口推計の結果の概要」より)

資源の大量消費

ジーンズ1本をつくるのに、1万リットル以上の水が必要といわれています。これは、ジーンズの主要素材である綿の栽培に、それだけ大量の水や肥料が使われるということです。また、合成繊維をつくるのであれば石油も必要になります。したがって、服をつくる過程では多くの資源が消費されているのです。

繊維の生産や使用に伴う環境負荷

フリースのジャケットやジム用のレギンスなど、合成繊維の服の人気は高まっています。しかし、合成繊維の生産は温室効果ガス排出を伴い、合成繊維の洗濯はマイクロプラスチックを海へ放出することにつながります。また、合成繊維に限らず、繊維の染色には化学物質が使用され、環境に悪影響を与えてしまいます。

(THE WALL STREET JOURNAL「古着リサイクルなぜ進まない? 新技術を模索する業界」より)

アパレル業界のリサイクル事例

ほかの分野に比べリサイクルが進みづらいアパレル業界ですが、少しずつ事例も出てきています。

再生羊毛「毛七」

愛知県一宮市を中心とする日本最大の繊維産地「尾州」では、羊毛を再生した繊維「毛七(けしち)」がつくられています。

古着や紡績工場で出た繊維くずなど、廃棄される羊毛繊維を全国各地から集め、一つ一つ人の手で仕分けます。繊維を選り分け、色を整えることで、染めなくても使用できる環境負荷の少ない糸をつくっています。

サスティナブルブランド「OUTER KNOWN」

有名サーファーKelly Slater(ケリー・スレイター)は著名デザイナーJohn Mooreとともに、2015年にファッションブランド「OUTER KNOWN」を立ち上げました。

OUTER KNOWNは機能性とファッション性に加え、低賃金工場への配慮や製造過程の透明化など、サステナビリティを追求したブランドです。製品には海洋ゴミからつくられたリサイクルポリエステルなど、環境に配慮した素材が使われています。

(GO RIDE NEWS「[FASHION] ケリースレイターの立ち上げたアパレルブランド OUTERKNOWN」より)

H&Mが2つの布地リサイクル施設を設立

2018年9月、H&M FoundationとHKRITA(香港繊維アパレル研究開発センター)は、布地のリサイクル施設を2つ公開しました。

1つ目は、大型機械として工場に導入された「熱水処理によるリサイクル技術」。需要が大きいながら困難とされていた、コットンとポリエステルから成る混紡布地の分離を実現しました。

2つ目は、H&M FoundationとHKRITAおよびNovetexのコラボレーションで生まれた小型コンテナ「衣類から衣類へのリサイクル・システム」。消費者は、コンテナ内の機械が自分の不要になった服をリサイクルし、新しいファッションをつくる様子を見学できます。

熱水処理によるリサイクル技術が大型機械に

小型コンテナ「衣類から衣類へのリサイクル・システム」

(H&Mプレスリリース「H&M Foundationと香港政府、そして最大手の紡績企業がスポンサー支援する最新リサイクル技術が実用化へ!本格的なファッション業界の変革に向けて大きく前進」より)

アパレルのリサイクルは今後発展するのか

アパレルのリサイクルはまだまだ課題が多いのが現状ですが、H&Mの新たなリサイクル技術など、解決への兆しも見られます。

また、リユースに関して、2015年の日本の衣類・服飾品(ブランド品を除く)の市場規模は推計863億円でしたが、2018年には推計1,002億円と約16%伸びています。そのため、今後も市場拡大の見込みがあると言えます。
(環境省「データで見る消費者とリユース」平成27年度発行より)
(環境省「平成30年度リユース市場規模調査報告書」より)

リユース市場の拡大を見ると、リサイクル市場にも今後大きく展開できるチャンスがあるのかもしれません。実際に、事例はいくつか出てきています。市場が広がれば、アパレルのリサイクルの課題も解決されていくのではないでしょうか。

 

執筆=中原 愛海

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